貸金業法43条の制定経緯

過払金返還訴訟において、取引経過が開示されれば業者側の反論としては「みなし弁済規定」の適用を主張するのが唯一の方法であろうと思われる。
そこで今更という感もぬぐえないが、「みなし弁済規定」の基本をおさらいしておこうと思う。

利息制限法1条についての確定判例

1960年代初頭に団地金融として誕生した現在のサラ金は、拡大に次ぐ拡大を続け、1978年(昭和53年)には、サラ金禍として社会問題となっており、全国サラ金問題対策協議会がつくられている。
当時貸金業者に対する法規制は、ほとんどないに等しく、わずかに「出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律」があったのみであるが、同法は高金利による処罰規定をおいたのみであり、しかもその処罰金利を日歩30銭(年109.5%)と極めて高利であったので、資金需要者の保護としての機能は全く働かなかった。
また簡易の届出制もあったが、事後届出であり、消費者保護の見地からは何の対策も講じていないに等しかった。
金融という最も強者対弱者の立場を鮮明とする事項において、貸手側の自由営業に委ねるとした法制では、種々の弊害が出るのは当然で、事実、貸手側の規模の拡大と比例して自殺・夜逃げ・返済資金捻出のための犯罪等大きな社会問題が顕現する。
いわば無法地帯ともいえる消費者金融を取り巻く過酷な状況に、最初に消費者保護の見地からくさびを打ったのは司法界からである。
昭和29年に法100号として制定された利息制限法の適用判断においてであった。
利息制限法1条は「金銭を目的とする消費貸借上の利息の契約は、その利息が左の利率により計算した金額をこえるときは、その超過部分につき無効とする」と定めているが、他方同条2項は「債務者は、前項の超過部分を任意に支払ったときは、同項の規定にもかかわらず、その返還を請求することができない」と定めており、裁判所の判断をまつしかなかった。
利息制限法1条1項の超過部分の利息契約は無効であるという判例理論は確立している。
ここから次の原理が演緯的に導かれる。
① 無効であるから超過部分の利息・損害金債務は存在しない。
② 存在しない債務に弁済の充当問題は起き得ない。したがって債務者の支払った金員は利息制限法で規定された利息・損害金・元本に充当される。
③ たとえ債務者が制限超過部分の利息・損害金として任意で支払った場合であっても、超過部分の債務は存在しないのであるから、民法491条(債務者が1個または数個の債務につき元本の外利息及び費用を払うべき場合において弁済者がその債務の全部を消滅せしむるに足らざる給付を為したるときはこれをもって順次に費用、利息及び元本に充当することを要す)により、制限を超える部分は残存元本に充当される。
④ 利息制限法に引き直し超過利息を元本に充当した結果、元本が完済となった後に債務者が支払った金員は不当利得として返還しなければならない。これは利息制限法1条2項が「超過部分を任意に支払ったときは、その返還を請求することができない」と規定しているため、同条の適用が問題となった事例であるが、最高裁は「金銭を目的とする消費貸借について元本債権の存在することを当然の前提とするものである」とし「元本の存在しないところに利息・損害金の発生の余地がなく、その後に支払われた金額は債務が存在しないのにその弁済として支払われたものに外ならないから、利息制限法の適用はなく民法の規定するところにより不当利得の返還を請求することができる」とした。

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サラ金2法の制定

上記のように最高裁判所の判断は、弱者である消費者を保護し、強行法である利息制限法の実効を確保するものであったが、前述したとおり昭和50年代の消費者金融を取り巻く諸環境は、法規制はなきに等しく、その結果消費貸借の契約書、受取証書、取引経過を示す帳簿類等さえも満足に交付、記載されておらず、裁判所に判断を仰ぐにも、手元に何も資料がない状況では、これら消費者保護の判断の恩恵を被った者は極めて少数であるという現実があった。
このような状況に中、いわゆる第1次サラ金パニックという事態が生じ、サラ金禍は大きな社会問題となった。
そこで昭和58年、立法担当者はようやく重い腰を上げ、いわゆるサラ金2法の制定に至った。
2法とは「貸金業の規制等に関する法律」と「出資の受け入れ、預り金及び金利等の取締に関する法律」の改正法である。
貸金業法は主に次の5点の内容から成っている。その1は、貸金業につき登録制を導入したことである。
その2は、貸金業者に対して各種の業務規制を課したことである。過剰融資の禁止、誇大広告の禁止、17条書面の交付、18条書面の交付、取立規制等である。
その3は、貸金業者の団体の組織および運営に関する規定を設けたことである。
その4は、貸金業者に対する監督の規定を整備したことである。
そしてその5が、いわゆる「みなし弁済」規定を設けたことである。
しかし4までは、規制等を通じて監督を強化したものであるのに対し、5の「みなし弁済」の規定は、全くその趣旨が異なり、「あめとむち」という卑近な言葉でたとえれば、4までが「むち」であるのに対し5は「あめ」となっている。
貸金業法が課した業務規制、とくに17条書面(貸付に係る契約についての書面)の交付、18条書面(受取証書)の交付は、それらが交付されれば利息制限法に定める金利を超えた利率で与信をしているのを常態とする消費者金融業者にとって、前述の最高裁判所の確立した判例理論により、超過利息は無効であり、元本に充当した結果、過払いがあれば不当利得返還請求を認容しなければならないこととなる。
17条書面、18条書面の交付の義務化が、貸金業務の適正な運用を確保し、債務者等の資金需要者の利益を図るための条文であることは疑いないが、一方最高裁の判例が維持されている限り、貸金業者にとっては極めて憂慮すべき事態で、このままの状態ではこれら書面交付の実効性が確保できないという疑問が出され、そこで最高裁の判例の趣旨を否定し、貸金業法第6章雑則に、貸金業者との利息の契約に基づいて、債務者が利息として任意に支払った額が、利息制限法に定められた金利を超える場合であっても、一定の書類(17条書面、18条書面)を債務者に交付していれば有効な利息の支払いとみなす、というみなし弁済規定(貸金業法43条)が制定されたのである。
貸金業法43条(以下、法43条ともいう)の立法過程が以上のようなものであるのは、同条が極めて政策的な規定であるということである。
17条書面、18条書面の交付義務化の実妨陛を確保するための条文というが、同書面は契約書および受取証書という現代社会において企業として存在するためには当然に交付すべき書類なのである。
このような書類を交付させるために最高裁の判例の趣旨に反する法を制定する根拠は何らの納得させる論拠も論理性もなく、43条の適用にあたっては、厳格にすべきであるという潮流があるが当然である。
43条の詳細については後述する。

利息制限法と貸金業法43条の関係

利息制限法と貸金業法43条の関係をどのようにとらえるかは、諸説がある。
その1は利息制限法適用除外説である。この説によれば貸金業者との取引は出資法の上限金利の制限までの約定を有効とするものであり、その根拠を伝統的な契約法理に求める。
しかし現代社会おいて、自由で合理的な精神をもつ各当事者間における契約という法理自体すでに成り立だない概念であり、特に一方当事者が消費者である場合には、不合理ですらある。
その2は利息制限法原則適用説といわれるものである。
貸金業者の金利の約定も利息制限法に服するとし、利息制限法違反の金利は無効を前提とし、超過利息の支払分を元本に充当し、充当後には債務者においてその返還を請求できることを原則とすべきとするものである。
ただ貸金業法43条の要件に合致した場合は、その支払いを有効とするが、その場合であっても支払いの任意性を極めて厳格に解する。
その3は消費者取引への貸金業法43条の適用除外説といわれるものである。
貸金業法は取引相手が消費者・事業者双方に適用されるが、相手方が消費者である場合には、その金利の制限については利息制限法に服する、とするものである。
反面事業者であれば、貸金業規制法43条の適用を受けるということになるが、近時大きな社会問題となった商工ローンに関する状況を見れば、金融業者の相手にする事業者とはそのほとんどが零細事業者であり、本質的に消費者と変わりがなく、このように区別しなければならない根拠が明確でない。
右の3説のうち、多数説は第2説であり、妥当な見解であるとおもわれるが、このように極めて論理的根拠に乏しく昭和58年当時の政策規定であった法43条を現在もなお維持する必要があるのかという問題提起は、種々の方面から提出されており、また最高裁判所も厳格説を採用し、裁判上では貸金業法43条が適用されるケースはほとんどなくなってきていると解釈してもよかろう。
しかし前述したとおり、取引経過が開示された後の貸金業者側からの唯一の反論の根拠は、このみなし弁済規定であるので、煩をいとわず解説することとしよう。

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